源流に遡る

 何年前の番組だったか、セーヌ川の源流を訪ねる記録が放映された。パリで見るセーヌ川がなんで「あんなに汚い」のか、という疑問を解くに格好の内容だった、とは言いがたいけれど、ブルゴーニュ地方ののどかな農村風景もあわせて堪能することができて喜んだ記憶がある。ぼくの地理的な興味・関心がブルゴーニュ地方を専らとし、なおかつ河川が生み出した産業文化である「薪材で造る筏の運送」に焦点化されてきた今、このセーヌ川源流探訪の記録を再度視聴したいという気持ちが強くある。
 フランス北部を横断するセーヌ川は南北から大小様々な河川が合流してできている。そのうちの一本ヨンヌ川がぼくの今のもっぱらの研究フィールドとなる。ヨンヌ川もセーヌ川と同じく、大小様々な河川が合流してできている。南北からの合流ではなく東西からの合流と言って良い。「筏師」文化の中心地となったクラムシーでは2本の小河川がヨンヌ川に合流している。ブヴロン川とソゼ川だ。ブヴロン川、ソゼ川にも、それぞれに、小河川が合流している。河川図を描いて見ると、セーヌの大木からヨンヌの太い枝が生え、ヨンヌの枝からブヴロンとソゼ川の小枝が生え・・・という具合になる。河川説明によって、ぼくは、ブヴロン川の源流にまで行き着くことができた。つまり、ヨンヌの源流、セーヌの源流の、まさに枝葉末節!!を地理的に理解することができた。
 それで面白いことに気づいた。それはブヴロンの源流あたりに、ロアール川との分水嶺があるということだ。ロアール川はフランス中部を横切って大西洋に注ぐ。だが、セーヌ川と水の源を共有しているというのだ。もちろん、ともに、モルヴァンの森という大森林地帯が源泉なのだから当然といえば当然なのだが、片方に「筏師」という産業文化が特徴付けられ、もう片方にはそれはほとんど語られない、ということをどのように説明すればいいのだろうか、という「問い」が生じたのである。ペチカはどの地域でも必要とする、薪材も当然そうなる、モルヴァンの森は薪材の大量生産地帯だ、だとすれば、その薪材の運搬手段も共通していていいはずではないか。
 今日一日、こんなことを考えながら、フランス語で難渋苦渋した生活を送った次第。「やってらんないけど面白い」現実。