「人類の最初の本」とは・・?

 訳書に頼って研究をしている。訳書は羅針盤だ。で、次のような記述に出会った。
「これは最近なされた最も良心的な、最も確かな諸研究によって論証されている。それと同時に、これはあの卓越した本の、人類の最初の本の最初のページに書かれているものと同じものである。」
 この一文の前には、教育は、活動、知能、意志を包括し、その順で行われなければならない、旨が書かれている。「諸研究」がそのことを論証したばかりか、そのことは人類最初の本に書かれている、との内容になるので、「諸研究」と「人類最初の本」とは別物であるとしか、読むことができない。イヤ、「諸研究」と「人類初の書物」の当体が同一である可能性もあるが、もしそうなら、なんとその当体は思いおごりの強い人であることよ。
 さて困った、「人類最初の本」。オラ知らんがな。キリスト教世界のことなので聖書かも知れんと思い分厚い『聖書』を取り出した・・・。ガクン。待てよ、書き手はサン=シモン主義者のことだからサン=シモンの『新キリスト教』か、と思ったが当てが完全に外れて、ガクンガクン。大切なこと故、あれこれと、思考し、探し回り・・・したが、解決がつかない。
 こういう時は、やはり、つたなさ以下の語学の才の持ち主で面倒くさがり屋のぼくであっても、原典に当たることになる。
 で、先の引用文は2文で構成されているが、原文は1文。しかもその後に文は続く。
 ぼくは次のように訳出した。
 「そうした教育のあり方は、非常に丹念になされかつはっきりと結論が導き出された研究のあれこれによって明らかにされている。それらの研究はこの近年に為されたものであるが、処女作であり、その第1ページにすでにそのことが書かれているのだ。それは、とりわけ次のようなことを書いている書物なのである。」(「次のように、以下続く文は省略)
 「人類最初の本」は過訳であり、原文通り「最初の本」とすれば、なんてことはないのだと、思った次第。
 この訳文部分(訳書)はゼミなどで読まれ、激しい討議が繰り広げられたはずだ。落としどころはどこで何であったのだろう。