汗だく

 牛丼は汁だくが旨い、という。では体調不良とおぼしき身体に汗だくはどうなのだ?
 出勤時、身体を引きずるようにして、とにかく前に進んだ。腰と右足が痛いこと痛いこと。腰をうんと曲げて歩かざるを得ない。あーあ、もう一本足が必要なんだ。そんな現実を思い知らされる。
 電車の中、珍しく、空席を求めた。こんなときに限って空席もなければ、「おじいさんどうぞ」の声も、無言も、お節介の席譲りはない。余計なことだが、どうして黙ってすっと立ったら席を譲ったことになるんだい?この無言の行動=圧力ほど腹が立つことはない…・って、話はそっちじゃない、今日は。つり革にぶら下がるって形容が一番正しい電車の中。
 研究室の中、今日の授業の準備.学生の「声」を読む、これで3度目。授業で紹介する声のピックアップ作業。しかし頭は働かない。今日の授業は地獄だな、これは。
 教室へ…見慣れない顔がたくさんいたので、一瞬教室を間違えたかと思い、表へ。近くのソファーで身体を休めながら、授業教室の記憶を確かめた。見知った顔が通りかかったので、「オレ、あの教室でいいの?」「いいっすよ」 いやぁ、おられますな、初顔が、たくさんたくさん。学祭が終わってそろそろ試験のことを意識し始めた「やばい」連中だわさ。オラ、ここでシャキッとした。腰が伸びた、痛いの飛んでった…。
 授業で…ペアディスカッションのお相手を決めていないのが20余人不安げに蠢いている、いや、目立たないように隠れる振りをしている(80人クラス中本日の出席70人。前回までは50人に届いたことはない。)。こいつらを教室から追い出す作戦に出た。が、こいつら、居座る、とな。居座るつもりなら、厳しい「愛のムチ」を受けなさい! 「前の大きく空席になっているところに座りなさい。」・・・まったく授業に出ていなかった者たちの中で、あるワンペアはホスト風の頭とファッション。えっとね、かっこはどうでもいいから、頭の中を学問的に実践的に働かせなさい…。
 ワガンネ?
  ンダス、ワガンネッス…
 ここをこうしてああして・・・ワガッタ?
  一応・・・
 一応じゃ、分かってねえってことだよ、てめえら。
  すんません。
 こうしている間に、作業中のペアから高々と手が上がる。
 「質問でーす。」
 ほいな、ちょいまち・・・
 他のワガンネ・ペアのお相手幾つか、他の質問ペアのお相手幾つか。教室を爺さんが走り回ります。汗が滝のように流れ落ちます。
 こうして90分がほぼ終わりに近づいた頃、来週の学習課題を提示。ホスト風ワガンネ・ペアに来週も来っか?と訊ねたら、「出ます」との返事。授業はじめの顔つきと終わりの顔つきが違う。「鬼の教授から解放された喜びか?そうだとしたら来週は来るんでね―ぞ」と言ったら、「先生、本当は優しいんッスね。」だと。学びの喜びに触れてくれさえすれば、鬼でも仏でも、オラ、かまわねえッスよ。
 研究室へ・・・腰と足の痛みはどこかに行った。明日、11日、12日の授業準備に取りかかる。12日も授業だなんて!ブツクサブツクサ。
 汗は収まった。熱もない。授業で走り回ったのがよかったのかしら?そうだとしたら、ワガンネペアたちに礼を言おう。汗だくは汁だくのように旨い、と。