川船物語

 ドーデ−原作『川船物語』はやはり『ベル・ニヴェルネーズ号−ある古い船とその船頭の物語』だった。「筏」との関係は、船頭がもとは筏師であったが、年老いて引退し川船の持ち主であり船頭となったというくだりがあるだけで、モルヴァンの森から切り出した木材をパリで売ることで暮らしを立てている船上生活一家の話である。その内容については後掲するとして、川船がどのように運航されていたのか、「曳舟」という方法であったがそれはどのようになされていたのか、そのあたりの知見を得るべく写真資料などを探した。
 まず、『川船物語』には「小蒸気」と出てくるから、いわゆるポンポン船のことか。水路でロープでつなぎ牽引するという方法である。物語にはニエーウル地方を走る汽車が登場するが、作品は1866年に発表されたから、鉄道開発の初期が描かれていると見てよい。
 続いて「曳舟道」をキーワードとして写真・絵画資料を探索したところ、馬が曳く、車が曳く写真を「ブルゴーニュ地方の運河」というガイドブックから見いだした。なかなか興味深い。


 『川船物語』によると上りも下りも「曳舟」であることが主な運航方法であるようだ。
 『川船物語』はパリ、タンプル街区、アンファン・ルージュ通りで、主人公(船主の船頭)が4歳の棄て児の男の子を「拾う」ところから始まる。そしてブルゴーニュの山里に連れて行き、20歳まで育て上げる。口も充分にきけない子どもが船乗り一家の愛情に包まれて(ことばはその反対のように思えることもあるのだが…)、知性もモラルも社会性も身につけていき、また船乗りとしての職能は育ての親をしのぐほどにまで腕を磨き、一家の最大の危機となった古い船ベル・ニヴェルネーズ号が廃船とされたが、少年を我が子と思い一時は育てた資産持ちの老大工が『ヌーベル・ニヴェルネーズ号』との名をつけた新船を少年にプレゼントし、船頭一家の新しい歴史の第一歩となる…、というあらまし。良質な少年文学。ただ、読み進める中で、この少年の育ちやヴィクトールと命名されたことなどは、イタール実践の「ヴィクトール」を想起させてくれたし(棄て児、聾唖現象等々)、知性を失うほどに悲しみに陥る主題などは、ウージェーヌ・シューの「白痴(イディオ)」という短編を思い出させる。(ウージェーヌ・シュー作「イディオ」(翻訳) http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~920061/sue.htm
今日古書店で購入した他の本などについては明日綴ろう。