フランス語スペルと読みの問題

 昨日の日記で「筏師街」を通称ベイヤンと呼ぶと、ロマン・ロランは『コラ・ブリニヨン』で書いている。これは邦訳書(みすず書房版、宮本正清訳)に従った。原作でBéyantと綴られているから「ベイヤン」で間違いはないのだろう。念のために、他の邦訳書でも確かめてみた。せっかく直木三十五(植村宗一)訳本を入手したのだ!活用しない手はない。彼の訳語は「ベヤン」となっている!これも原作の読みで可能である。
 ぼくが「バヤン」と訳したのは、クラムシーに関する研究書、史資料集のたぐいに記述されているBeyantからである。eにアクサン記号がついているかいないか、という問題なのだ。ロマン・ロランの原作は戦前の1919年にまず発表され、続いて戦後の1946年に発表されている。史資料類はロマン・ロランの作品発表より前のものだけれど、それに従えばBeyantでeにアクサン記号はついていない。この場合だと、「バヤン」でも間違いではないのだ。さあ、とっちだ!?
 さらにもう一点、筏師街は通称がBeyanだが、公的な地図にはBethléemと記述される。ぼくはこれを、最初の頃、つまり2003年の頃、「ベツレヘム」と読みを当てていた。フランス語辞書の訳語にそうあったからだ。ただし、ヨルダンの首都と但し書きがされているのだけれど。宮本正清もそのようにあてている。直木三十五はと言うと「ベトレーム」となっている。ぼくは2005年頃にそのように変更した。というのは、同じフランス語辞書に基づく Bethléemの発音は「ベトレーム」に近いからだ。「意味」を取るのか「発音」を取るのか。地名であるので現地の人に確かめるのが一番。直接聞き取りをしたのではないけれど、会話の中で聞き取ることができたのは「バヤン」であり「ベトレーム」であったのだが・・・・。
 ということで、今後は、「バヤン」と「ベトレーム」とで通していきたい。