新日本出版社編集部のK氏に宛てた手紙

メールをありがとうございました。こちらこそご無沙汰をいたしております。定年退職を間近に控え、何かと落ち着かない日々を過ごしております。
 ところで、『売掛代金』についてのお問い合わせをいただきました。まことに申し訳ございませんでした。いつでも支払いができるようにと、研究室ドアに振込用紙を貼り付けておいたのですが、そのうちそのうちで時が過ぎてしまいました。本当に申し訳ございません。今朝、郵便局にて振り込みました。
 拙著では本当にいろいろとお世話になりました。有りがたいお褒めのことばもいただきましたが、その一方で、きちんとした読まれ方がされずタイトル印象だけで「感想」を述べられる方が多く(とりわけ現場教師)、また、「研究書として体をなしていない」という厳しいご批判もいただき(関係領域の研究者)、それは私の筆力の足りなさだと強く自己を批判せざるを得ないところです。
 拙著で書き及ばなかった文献の典拠や私に即した研究課題などを強く意識し,退職記念の一書を纏めました。この書には私のパリ・コミューン研究も収録し、「19世紀フランスにおける教育のための戦い」との標題の元で、来年3月前に小さな出版社幻戯書房から刊行していただくことになっています。二部構成で、第一部がセガンを核とした「白痴教育教師の誕生」(医学博士達との軋轢の問題)―専門職としての白痴教育教師の自立―を、第二部を「パリ・コミューンと教育改革」(宗教的支配から世俗教育の自立の戦い)とし、19世紀フランス教育を強く支配していた精神世界(精神医学、カトリック教会)から民衆教育が自立していくプロセスを綴りました。
 これで、拙著に寄せられた研究批判に対して回答できたかと思っています。それは同時に、私を縛っていた「清水寛ワールド」からの自立を成し遂げたことを意味するようにも、感じられます。刊行されました暁にはお手元にお届けいたします。
 今後ともよろしくお願いいたします。
川口幸宏
追伸:「19世紀フランスにおける教育のための戦い」の「はじめに」の草稿を添付いたしました。ご笑覧ください。