セガン総括その2

「川口さんが方々、寄り道したから、このセガン研究はかけたのです。」
「と言われますと?」
「普通、ぼくも含めてですけど、研究者であろうとすれば、大学院で猛烈に研究し、学位を目指し、研究者となってからは学界をリードすべくまっすぐ突き進むでしょう。」
「なるほど。ぼくも一応、猛烈にてっぺん目指して、大学院のときはがんばりましたよ。もちろん、大学に就職してからもしばらくは。」
「でも、周りはそうさせませんでしたね。なんの落ち度もないのに左遷でしょ。そのときぼくはなんの力にもなれなかったから申し訳ないと思ってます。」
「社会というのは、必要な人、まあいても邪魔じゃない人、出て行ってもらいたい人、そして何としても追い出す、というような構造になっていますね。通常は、社会がどのような必要な人間を求めているかということを学習するのですが、ぼくはそうではなかったわけで、やりたいことをやる。だから、最初は必要な人だったけど、だんだん邪魔さえしなきゃええで(「お前は何もしないことが仕事なんだよ」)、そろそろ出てったらどうや、ちょうど別口ができたみたいやしな、んなら出てってもらおか、こんな調子で、ぼくは「社会」の中心部から外部へと進んで行ったわけですね。まるで、白痴が人間として解放される歴史とは逆みたい(清水、笑う)」
「2003年のルソー・セガンの旅では、ぼくが天を指すと川口さんは必ず地を指す。てっぺんばかり、同化ばかりを求めた人生だったら、そんなまねはしないよね。心の中で清水は分かってないなーと思ってても、同意のしるしの笑顔を見せますもの。」
「だから、研究者として、天涯孤独を強いられてるんでしょうね。」
「でも、ぼくらの研究がつねに天に向いていたから、地の姿は見えていなかった。川口さんの今度の研究で地の姿を見ることができるようになりましたね、ぼくなんか低学力の見本みたいになってるから、腹が立つけど(笑)」
「遠慮という言葉がないから、嫌われますね。」
「それこそがセガン研究に必要だったと思いますよ。」
パンテオン横のルソー立像の写真をご覧ください。」
「あれ、うしろ姿だね。」
「そうです。これが私のセガン研究。」
「うしろ姿には、年齢や健康など、本当のことが見えるそうですね。」
「ありがとうございます。」