新しい学力問題

 今年の学生レポートは誤字が少ない。ある授業では手書きレポートを課しているが、大抵の者がきれいに書いている。もちろん見た目のことだけど。オヤ、今年は基礎学力の問題で頭を痛めなくてもいいのだなー、とつぶやきながら、レポートを読み進めていった。
 これまで頭を痛めていた問題というのは誤字。生徒は「生従」、講義は「講議」などなど。もちろんそれに留まらない学力問題もあることはあるが、ここでは誤字問題。それが、今読んでいるレポートの山には「誤字」が少ない(いや、実感としては「少くなっている」という表現が適切)。
 ところが、ある学生のちょっとしたミステークで、誤字が少ないことの意味が分かった。ワープロで下書きをし手書き文書に直して提出する、ということなのだ。確かに、「せいと」と入力して「生従」と変換する学生並みのワープロは今のところ皆無である。モニターに打ちだされたアウトプット文をそのまま無思考で、つまり、機械的に書き写す。
 だが、基礎学力問題は何も解決していないことは、多くのレポートを読み進めていくうちにはっきりと分かってくる。例えば、「けいしきにのっとってれぽーとをさくせいした」という一文は、どういうわけだか彼らの使用するワープロでは「型式に乗っ取ってレポートを作成した」となるらしい。イヤイヤ、そうではない、ワープロはちゃんと「型式に則ってレポートを作成する」とアウトプットするのだが、「則って」の部分を低学力おぼちゃま、おじょうちゃまたちが、「これは誤変換だ」と判断し、「乗っ取って」と訂正するのであろう。この例文ではこの変換のおかしさに気付かないだろうが、「学校の規則に乗っ取って教育実習を行なう」とあると、おいおい、お前、教育実習先の規則を乗っ取って自分流を貫くのかい、と読みの感想を思い浮かべるのである。
 学力をワープロに乗っ取られる時代に突入なのだろう。新しい学力問題である。
 
 「時刻の歴史や文化を理解し、尊重する態度」・・はー。教育実習に行くにあたって事前に準備しておかなければならないことなんだそうだ。ワープロ信仰を捨てることこそが必要だと思いますけど、君。