ショートショート 第1回 場にそむくギャルや声の浮き心

 「携帯電話の波及効果」の講義に熱弁をふるっていた教授の耳に倖田來未のyouのメロディーが聞こえてきた。が、すぐに音楽は止み寝ぼけハスキーの「もしもし」に変わる。
 「ぁ、クミぃ、今授業中って感じぃっ。・・・いいよぉ、べつにぃ。・・・うん、ウザイってか、キモイってか、やってらんねぇよ。ダルェ、、、つまんねーし、ょー・・・キャハハハハ・・・でさぁ、ウチとかぁ夜行性の人じゃない?・・・やだ、ちがうよー、そんなんじゃないよ、タケとは。タケとは何にもないよ。・・・うん。マジでぇ?そうなんだぁ、クミと夕べ、約束してたんだ。タケ、クミとは何もない、って言ってたけどさぁ。・・・キャハハハハハ・・・」
 教授の熱弁は続くが、ハスキー女周辺は、女が次第にクミに対する勝利者を自覚していく様を楽しんでいた。と同時に、彼らもまた、携帯メールを楽しみはじめた。キャハハの声の主に合わせるように、彼らはククク、ニタァを繰り返し、時を楽しんでいた。
 こうして、教授の講義テーマ「携帯電話の波及効果」は、実証されたと言えよう。すなわち、「携帯電話の非文化的波及効果」についてである。
 
 松尾芭蕉の元句:葉にそむく椿や花のよそ心 より