あるメッセージ

 不安定な精神状況を思わせるレポートの記述。同一ページ、同一段落で「価値観」「価値感」などの併記記述に象徴されている。顔は分からないが名前にはしっかりと覚えがある。「どうしても実名で自分の声を皆に届けることができない。対人恐怖症に陥っているので、実名的関係を結ぶことが怖いのです。」ある日の授業の後に提出される寸感にそう記していた学生だ。
 点数をつける前に今一度読み直す。縦書き400字詰め原稿用紙二つ折りで綴じてあり計19ページ記述されている。記述論理も繰り返したり飛躍したりと、安定度が低い。そして、一度目読んだ時には気付かなかったが、20ページ目の欄外に小さな字で次のように書かれていた。
 「対人恐怖症ですが、たまに出てしまいますが、だんだん出なくなって来ました。ご心配いただき、ありがとうございました。先生のお言葉で、とてもホッとしました。」
 「人間の発達にとって、とくに青年期の発達にとって、穴に潜って自分を守ることがどうしても必要な時ってありますね。教育という仕事では、そういう現象を困った現象と見てしまいがちですが、必要なモノは必要なのです。」そういう話を、その寸感が提出された翌週の授業の頭の語りにしていた。
 そんなことを思い出しつつ、当該レポートを再々読。揺れた心内から必死に自分の論理を紡ごうとしている。もうすぐ春だな。