ご逝去の報

 朝刊を開いたら、「芭蕉・蕪村研究第一人者 尾形仂さん死去」の記事見出し。

 「道端の木槿は馬に喰われけり」の句の鑑賞と批評の授業を思い出す。
 「文学部学生以外の聴講を禁ず」との但し書きを無視し、強引に授業に参加させていただいた。しかし、専門としての、韻文学、古典、そして近世という時代について何ら教養を持たない者の参加は授業進行の妨げ以外の何ものでもなかった。高校までの国語の授業の、「ただ一つの正解」を出すことに汲々としていただけの「成績優秀者」が覗き見ることができるような世界ではなかった。学問の、本当の意味での、基礎教養とは何かを教えられた尾形ゼミであった。その後のぼくに生かされている?はたしてどうかな、尾形先生の次の言葉こそ、ぼくという人格そのものに、今もなお、厳しく宛てられているように思われてならない。

 まずは、評価票の裏書きに、「帳簿上はBCの評価を出しましたが、本当のあなたの力はCDであります。」と。

 通年4単位で1単位ずつA〜Dを評価する。Aは優、Bは良、Cは可、Dは不可。4単位のうち1単位でも不可があればその科目全体は不可となる。AAAA〜ABBBは「優」となるといった案配。ちなみに、BCとは、BBCCもしくはBCCCという評価に相当する。

 尾形先生は、「卒業単位としては可に限りなく近い良を出しました、これはやむにやまれぬ私の温情です。私が本当にあなたの学力に対して評価するのは不可です、能力が何もないというわけではないのですけれど。」と、改めてメモでくださった。

 尾形先生とはそれ以来お会いしていない。しかし、常に「やむにやまれぬ温情が必要でないような生き方をしていますか?」という先生のお声が、意識の奥深くに、息づいている。

 合掌