「先生、髪の毛が・・・」

 素敵なお嬢さんから出会い頭にいただいたご挨拶。
「そうなの、髪の毛が無くなっちゃったの。」重ねて「髪の毛が無くなっちゃって輝いてるの」と返礼。

 朝、ほぼ半年ぶりになじみの床屋さんへ。10分1000円や2200円と蛍光掲示板で宣伝を流す床屋が駅前にもあるが入ったことはない。そういう「安売り」ではなく、理容組合員の看板が掛かった床屋が結構ある。駅から我が家への道のりでも、祝祭日にはいつも日の丸を掲げ教会の案内ポスターが常に張り出されている床屋。ここの主とは保育園の父母会で同じく役員をした方だ。未だ利用したことがない。さらに我が家の方に進むと、「姉妹の店」を売りにしている理髪店・理容店がある。いつも、合気道のポスターが張り出されている。幾度かお世話になったが、いつしか足が遠のくようになった。おそらくお店の人の会話がなじめなかったのだろう。
 さらに我が家の方に進み、白山神社の通り向かいに、理容店・理髪店が並んでいる。ご夫婦がそれぞれの店を経営しておられるのだろう。ここがぼくのなじみの床屋さん。「半年来なくてもいいほどに短くしてね。」と言って座る。「ほいよ。」と親父さんが櫛と鋏を駆使してシャキシャキ・・・。その間に会話。
 「どっちの耳が聞こえなかったんだっけ」と、左、右の耳元で大きな声で語りかける。「左が聞こえないのね。でも、そんなに大きな声でなくても大丈夫だよ。」「先生も大変だね―、だってね、その耳で学生と会話しなきゃいけないんだろ?」「いやなにね、いざとなったら、怒鳴って震え上がらせればいいから。」「それにしても、麻生はくだらないやつだね―。」・・・。話に流れはないように思われるけれど、心が軽くなっていくのを感じる。仕事と会話とを見事にあわせた粋な職人。1時間で3000円は、10分1000円などと比べて、遙かに値打ちがあると思う。地元の床屋さんはセラピスト。
 さっぱりきれいに、軽くなった頭の上に白山神社の桜の花びらが飛んできた。髪の毛が少なすぎる地肌に乗っかった。今日も何かいいこと、あるらし・・・。