辞書ぐらい揃えて下さいな

 自称学術出版社にまつわる話。
 蛸壺もグローバルもひっくるめてじつに数多くの研究者がいる。研究者は研究業績を出さないとクビに関わるから、必死だ。人文・社会科学系は「仮説・実験(検証)・結論」という公式を成立させるために多大の字数を必要とする。可能ならば世界中の「文化」にアクセスしてその公式を成立させようと願う。
 自称学術出版社はこうした研究者の切なる願いに「お金さえ出せば叶えて進ぜよう」と応えて下さるありがたい存在だ。ただし、昨今の電子出版傾向を反映して出力以降のことしか請け負ってくれない。しかも、ある若造編集者がふんぞり返って言う、「校正は一切ありませんから、そのつもりで」、と。つまり、ゲラ返しはない。若造の言うことのままだとすれば、研究者は入力データを出版社に渡せば本となってできあがってくるのを待つ、となる。
 上に書いたことが本当ならば、ゲラ返しは一切無い。完全原稿だと思っていても、時間が経つにつれて、手を入れる欲求が出てくる。これまではそれが可能だったが、自称学術出版社ではそれが不可能となる。でも、まあ、それぐらいは業績主義の社会に生きていくためには、我慢をしなければならないのだろうなぁ。けたくそわるい!<閑話休題1>
 某学術出版社を表敬訪問した。編集室など社内のあれこれを案内されて、ふと気づいた。「イミダス」「常識」なんたらかんたらの「書籍」は棚に並んでいたが、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、中国語、韓国語等の辞書は皆無である。「外国語辞書無いですね。」「必要ないですから。」「ではイミダスなどは必要なの」「・・・」「何に使うの?」「・・・校正です」「誰の原稿の校正ですか?」「先生方からいただいた原稿、出稿ゲラの社内校正です。」「ロシア語を駆使した学術書も出版されているけれど、その校正は社内のどなたが?」「・・・・」「企業秘密ですか」
 フランス語が書かれている原稿が真っ赤になっていた。「発音記号など書いてふざけた原稿だ!」という校正者メモが欄外に書かれていた。こういう校正者をやとってんだもの、なるほど「企業秘密」だわさ。
 著者校正がないという前提だから、そのままでいったら、この原稿の著者、手許に送られてきた我が愛しの著書によって、世に出て恥かく大馬鹿モノ、ということになる。