徳島便り その三

jittyan2011-06-17

 朝食は生卵あるいは5分ボイルエッグ(伝統的日本語表現では半熟卵とも言うな。だけど、まるで卵そのものが成熟しきっていないという風にも取れるから、カタカナで言うようになったんかいな)を味噌汁に落としていただくと固く決めて、調理品の並ぶところにいそいそと向かった。
 が、ない。スクランブルエッグだの玉子焼きだのはあるが、ぼくの好みの卵がない。思いっきり勇気を振り絞って、テーブルを片付けているおばさんねーちゃんに、「あのー、生卵ないしは半熟卵をいただくことはできますか。」と頭を下げた。スクランブルエッグのほうに視線を向けて、「はぁ、生卵ですか?」と不審げな声を出す。おばさんねーちゃんがただのおばちゃんになるのかいな?と思った瞬間、「生卵でございますね。少々お待ちいただけますか?」とおねーちゃんおばさんの態度を取ってくれた。「もちろん、うみたてでなくて結構です。」アホな言葉を追加。
 待つことしばし。鶏を追い回しているんかいな。んにゃー、ぼくの経験で言うと、にわとりは追い回しても卵は産まんぜ。あきらめて指定テーブルに座った。食堂の一番隅っこであるから、首を長く伸ばして、おねーちゃんおばさんが姿を現すのを待った。
 お、あった!卵たてに乗せられた卵一個と割り卵を入れる器とを、お盆の上に載せ、恭しく、おねーちゃんがこちらに向かってくる。ぼくは起立して向かえ、「ありがとうございます。」と深々と頭を下げ、謝意を示したのであった。
 で、今朝の食事は、レンコンの煮付け、大豆の煮付け、漬物少々、味噌汁、そして生卵。生卵は味噌汁に割り込まれる。おいしいんだなー、これ。
 ようやく、ぼくは、バイキングを楽しんだのである。おねえさま、ありがとう。
 それにしても、卵はぐんと冷えきっていた。とすれば、あの待ち時間はいったい何と説明しようか。「生みたてのほかほかでは客が気持ち悪がるだろう、急速冷凍して、固まらないうちに、お出しなさい。」そんなシェフの愛の声が聞こえてきそうであった。