これで350円



 昨日の讃岐うどんのうまさが忘れられず、今日も昼はうどんを食した。ただし別の店。セルフサービスで、というから、上野駅構内のあの店と同じやり方だろうと思って、暖簾をくぐった。昨日の店と違うのはえらく活気づいていること、真っ昼間から缶ビールをあおっている月給取りが少なくないこと(オレも古いな―。でも、男女の区別のない言葉って、これなんだよ。サラリーマンだと男だろ?それに対する言葉はサラリーウーマンじゃなくって、OLだと?チと了見が狭い言葉だよね。月給取りが一番。あ、時給取り、日給取り、週給取り、年給取り、いろいろな取りが棲息するようになったんだっけ。)、店のにーちゃん、ねーちゃんの威勢がいいこと、そして、昨日のような大・小タヌキは一頭もいないこと。折角だから、昨日の小タヌキ=箸立タヌキをここで復活させよう。
 中学生もどきもばあさんもどきも、そして月給取りもどきも、てきぱきてきぱきと、盆に天ぷらなどの付け合わせをのせ、最後に食するうどんを注文している。流れは分かった。上野と一緒だ。だが、てきぱきてきぱき、とはいかない。後ろがつっかえている、ここはお江戸で気が短い、って所じゃないんだけど、日本全国無機質化していることを立証するような客たちのいらだちを背にした日にゃ、わしゃ、臍がさらに曲がる。奥の手じゃ。店の髭もじゃ頭手ぬぐいアンちゃんに、「何がどうすりゃええのか、さっぱりわからんで。わし。」と大声で叫ぶと、アンちゃん、「うどんは冷たいの?熱いの?」と聞いてくれた。しめしめ、これで後ろの客のいらだちはぼくだけに向けられるのではなくなったぞ。
 冷たいうどん、醤油かけ、それと半熟玉子。あとは手前にあったなすの天ぷらを盆に載せる。「350円だよ。」「箸は?それと、真っ白だけど、醤油は?」「後ろに箸があるし、そこに薬味がネギ、カツオ節、天かすとあるから、お好きなだけどうぞ、醤油がそこにあるでしょ。」 
 薬味はどれだけ欲張ったって、うどんに味はつかない。しかし、醤油はかければかけるほどうどんが辛くなる。そういう法式を明確に悟ったのは、うどんを口に入れた瞬間だった。「しまったっ!!」