「態度、悪くないっスか」

 6時起床、6時半自宅を出て研究室へ。メールの処理の後、「教育基礎」の授業準備と6月いっぱいの校務を手がけ始める。これは目が回るような書類。当分続くことになる。
 「教育基礎」 前時までの復習の後、「寺子屋」について図版を用いた3人一組のグループ学習。徳島で入手した寺子屋図版で、なかなか面白いので是非学生諸君にも味わって貰いたいと印刷配布。「図版を見て感じたことをそれぞれが語り合い、語り合ったことを元にして、自身の考えを深めていく」ことが課題。図版は寺子たちの学習の様子(真面目なもの、とっくみあいをしているもの、色々あり)、太った元武士の師匠の所在なさげな様子、そして図版左下隅には男女の大人二人と一人の子どもが向かい合って何か語り合っている様子が描かれている。この最後の図版部分を学生たちがどのように解釈するのか、それこそ、ワクワクドキドキものである。寺子屋で学んだことをもとに無識な父母に教えている図なのだが、今の学生にはそういう光景自体、想像つかないだろうな。
 グループ学習開始直後、つまり授業が始まって30分余、ひとりの男子学生が両手をズボンのポケットに入れたままヌッと姿を現した。少しきつい声で「もうグループ学習が始まっているし、グループが固まっているから、入るところはないよ。」と告げた。なにやらぼそぼそ言うので、「オレは聴覚が悪いと言っているからそれを理解してしゃべりなさい。」と命じた後、先ほどと同じことを告げ、彼が立っているすぐ側のグループを示し、「そこに入れて貰いなさい。」と指示したが、少し戸惑いを見せ、教室を出て行った。やや経って立ち戻って来、やはり両手をポケットに突っ込んだまま少し大きめの声でなにやら言う。やむを得ず補聴器を装填して「そこのグループに入れて貰いなさい。」と再度指示したが、彼は「態度悪くないっスか。」と言う。たしかに彼の態度は悪い、ぼくもむかっと来るほどに悪い。だけれど、どうやら彼自身のことを言っているのではないことは、判断できる。「態度悪いって、オレのことか?ポケットに手を突っ込んだままで人と向かい合っている君の方が悪いと思うが。」再び、「態度悪くないっスか。」と言う。「グループ活動をすでに始めているから入るところはないけれど、そこに入れて貰いなさい、ということが、態度悪い、というのか?授業参加を拒否してなぞいないぞ。」「電車が遅れたンスから、しょうがないじゃないっスか。」このスカスカ言語何とかしないと、ぼくの魂が狂いそうだけれど、どうにもならない。「ポケットから手を出してものを言え!」ときつく叱責したが動ぜず、そのまま教室を出て行った。
 他に遅刻して入ってきた者が数名いるが、彼ほどの時間は遅れてきていない。遅延証明(紙切れだけど、駅で配布してくれる)が提示されれば、ぼくも、了解!と言い、しかしことばは同じで、指示をしたであろう。それでも、「態度、悪くないっスか?」のかな。
 学生から「態度悪い」と言われたのは初めての経験。戸惑いは強い。ひょっとしたら「存在自体が悪」と言われた大学生時代以上に強い戸惑いかもしれない。
 授業終了後、ただちに、ランチ会議。その後、校務処理進行。疲れの間にフランス語。