言葉を選ぶ、文を作る

 長期にわたるパリ生活の慰みにと本屋で手に取った、一冊のミニ絵本。タイトルに"Bonheur de chats"とある。
 とりあえず『ネコの幸せ』と邦題をつけよう。裏表紙には
L'homme
est la plus belle
conquête du chat
と三行分かち書きで綴られている。とりあえず
人間は
ネコのとてもよい
征服物である
とでも、しておこうか。なんだか散文的過ぎるなぁ。
 タイトルといいこの分かち書き文といい、この本の作者ジャン・ガスタルディは、ネコに目線を被せているようだ。ネコ好きのぼくはこの目線が十二分すぎるほどによく分かるから、訳文はこのままでもいい。しかし、散文的すぎるのが気にくわない。「征服物」に代わる訳義を探そうではないか。
 「心を奪われること」というのもあるなぁ。「オレはあの娘に首ったけ」なんて場合もconquêteを使う。けれど、野暮ったいねぇ。「人はネコに首ったけ」?ちゃうでしょう。あくまでも「ネコ目線」がこの文章理解つまりこの本の本質なんだから・・・
・・・・
 こんな、ああだ、こうだをつぶやきながら、訳文を定める作業は、じつに楽しい。日常はこんな余裕など全くないから、余計に思慕が強まる。今夏も、ほんの少し、この思慕に耽る贅沢に浴することができる。
 で、思慕の決着は
ネコは 人を
虜にする
とても とても
こんなところです。いや待てよ、こんなのも有りだな。
人は
ただただ
ネコに従うのみ。