ある「語り合い」の思い出し―「自分なりの正解探し」

○旧作「ル・ミュール(le mur:「壁」)」を多少改作の上、HPにアップ。
ル・ミュール(le mur:「壁」)へお越し下さい。
○昨日のS君との語り合いの最中、この馬鹿鶴の脳裏に強く蘇ってきた「語り合い」があった。それを今、再現してみたい。多少混乱気味の講義の方向を明確にする意味でも。
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1.2日間の養護学校における介護等体験について
T君「専門の授業で、聴いていなければ絶対に理解できないものがある。その、ぼくら学生にとってはいわば死活に関わるような時間を割いてまで、行わなければならないということに、強い抵抗感を持っていた。カノジョもやはり同じ気持ちであり、二人して文部科学大臣に何とかしてもらいたいと話し合っていた。そういう気持ちで行った2日間だったが、行ってみて、ことばは悪いけれど、ぼくらが今まで会ったこともないような新しい人間に出会ったように思う。ぼくは知的障害の2人を担当したけれど、いやなものはいや、好きなものはすき、とはっきりしている。ぼくらはそうした感情を押し殺して、協調性のもとに、行動している。そういう立場からすれば、ある意味かわいそうであり、ある意味うらやましいと思った」
馬鹿鶴「その、『新しい人間に出会った』、というところに、ぼくたちが通常世界と言っていることの、一面性、限界性があるね。人間は多様である、個性的であると誰もが言いうけれど、君の言う『新しい人間』について考えもしないし、また一緒に行動する機会もない。ぼくたちは個性的でありなおかつ社会的である。しかし、君の経験では、社会的な人間が個性的な人間に触れて、パニックを起こしたというか、ショックを受けた。結局、個性的であるとはどういうことか、社会的であるとはどういうことか、通常世界、現実社会では見えないということを学んだのではないかな。通常社会のぼくたちは、今にも障害を持つ可能性はあるわけだし、将来にもその可能性がある。ぼくの身内に当然その可能性がある。その可能性についてまるで理解しない、できないような社会システムに問題はないかしらね。」
2.卒業後の進路について
T君「先生には申し訳ないけれど、今は、教職は意識にない。大学関係の職員になりたい。あるいは大学院に進んで研究者になりたい。」
馬鹿鶴「君の人生は君のものだから。ぼくに申し訳ない、ということはない。夢は揺らぎ揺らぎしながらひとつの形になっていく。それが青年期ではないかな。君の今の夢が、何らかの形で実現する方向も、すばらしい人生だと思う。」
3.卒業論文について
T君「古代日本における、関所に、とても興味がある。畿内と畿外とを分ける論理は何であったのか。特に畿外の目線からそれを追いかけたい」
馬鹿鶴「面白いね。関所では勿来の関なんかは蝦夷と和国とを明確に分けるものだよね。東には結構多いけど、西はどうなの?」
T君「西はないですね。」
馬鹿鶴「どうしてだろうね。クマソ・隼人とは血の交流を行っていたけれど、蝦夷とはそうしていない。それはいったい何なんだろう。朝鮮半島との政治的文化的経済的交流と絡んでいるのかしらね。東、北のほうはそれがないしね。」
 彼の語りの中に「名張の関」が出てきた。しばらくは、大和朝廷と地方豪族−伊賀と伊勢―との関係性についての語りが続く。続く話で「美旗の古墳群」の登場。
馬鹿鶴「かなりの豪族がいた様子がしのばれるね。貴人塚とか馬塚とか、非常に立派で美しい前方後円墳だものね。」
T君「絶対行きたいと思っているところです!」
馬鹿鶴「是非。石室も公開されている古墳があるからね。全体的に盗掘されているので副葬品にお目にかかれないはずです。しかし、古代の比較的規模の大きな墓場を丹念に歩くと、新しい気づきがあるんじゃないかなぁ。」

(写真は馬塚)2007年撮影

 帰り際、「ぼくは先生にあこがれているところがあります。先生は雑学のキングです。そうなりたいです。」と言う。彼は生徒指導の研究でこっぴどく怒られた学生の一人である。「ぼくは君たちを分別をわきまえている人間だと思うから怒るのだ」と言ったことをしっかりと覚えていたらしい。「言われてみて分かったけれど、確かに自分たちのやっていたことはまさに小学生レベル。怒られて当たり前だと思うようになった。後輩たちはそれがまだ分からないらしい。先生は、俺の言っていることを正解とするな、と言っておられるけれど、それは自分なりの思考の筋道を持て、という意味。怒られてそれがわかってから、グループでも、激しいけんかを繰り返しながら、授業時間外でも夏休みでも集まって議論を重ねた。グループとしてひとつの正解を見つけられなかったけれど、一人一人が自分なりの正解への道を探すことができたと誇りに思う。結局、雑学がものを言うんですね、自分なりの正解探しは。先生は、ぼくの言うことにことごとくコメントを、しかもぼくが求めているようなコメントをしてくれる。すごい雑学の主だ。」「まあ、人間長く生きていれば、知りたくないことも知ってしまうからねぇ。」
 雑学とは面白い表現だ。
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 更改には少し日が早いが、HPの「今週の扉写真」を変更。モントレー湾の万歳ラッコと禿ぷり見事なクラゲ。川口幸宏の教育の旅のページへどうぞ。