三醜人

 本当は「3人の醜女」と書きたいところだが、ジェンダー問題に発展する可能性がないでもない表現なので、標題のごとくした。事実、今日のぼくの前で醜態をさらしたのは、すべて女性だったのだ。
その1 信号が変わって車が発進する。目の前の車の運転席には中年女性が座っている。見ると彼女は、ハンドルの上に載せた両の手の間に携帯を開いており、指がナンバーをタイピングしていた。目線は携帯のナンバーとモニターとを交互している。つまり、前方を確認することもなく信号で止まっていた車を発車させたが、携帯を操作しながらであったのだ。後続の車の運転席の女性は携帯で話をしながらであった。それらの車が走っているのは名にし負う国道16号。重量車両が激しく行き交う交通事故多発予備軍道路である。10台のうち7台が携帯を操作しながらの運転の光景に、背筋がぞっとした。それらすべてが女性であったことは偶然なのだろうけれど…。
その2 山手線内で座席に座っていた。左隣は空席だったが、駒込駅若い女性が乗り込んだ。ちらっと流し目で見る。口を半ば開けたままで居続ける、いわゆるバカ表情、そして化粧が濃い。大学生のように見えたけれど。さて、くだんのバカ女性、バッグの口を開けた。ああ、始まるのか。化粧である。腕を動かし、顔をはたく振動がこちらに伝わってくるのを何とか我慢し続けたが―携帯でゲームをする者も同様だが、日本の車両の座席は隣と隣とが微妙に身体をくっつけ合わざるを得ない仕様になっている―、突然鼻腔に強烈な臭いが襲ってきた。香害。持っていた週刊誌をばたばたと煽ぎ、こちらに漂ってくる臭いを必死になって追い返そうとした。声を荒げてもの申した、「我慢にも限度がある。車内で化粧するのは止めろよな、この醜女(しこめ)!」たぶん、バカ女は、醜女などという言葉を知らぬであろうから、わざと使った。「すみません」と小さな声を出し、化粧用具をしまい、お定まりの携帯を取りだした・・・・。目白では降りなかった。
その3 夕食を池袋でいただいた。2人掛けが向かい合っているテーブル席に案内されて座る支度をしていたところ、ぼくの後ろのテーブル席に二人連れの中年女性が案内されてやって来た。ぼくが座ろうとしている後ろの席に、赤茶のアフロヘヤーの女性が腰を下ろすや、背もたれを超して頭をぼくの座席方向に倒してきた。つまり、ぼくの座る空間を彼女の頭が占拠したわけだ。座るに座れずおたおたしているうちに、赤茶アフロ毛女が頭をごしごしと両の手でカキムシリ始めた―まさにそのような形容にふさわしい所作なのだ―。当然、ふけがこぼれ落ちている。耐えられず怒鳴る、「食事をするところでふけをまき散らすんじゃねえよ、このバカッ!」 当人きょとんとしていたから、習性になっているのだろうか。連れの女が「このじいさん怖いから、あっちへ移ろ」。ツンボのぼくにも聞こえたのだから、かなり大きな声であったのだろう、「あなた、止めなさいよ、迷惑でしょ」という連れに対する忠告ではなかったことは確かである。
こういう光景を日常的に見るようになっている我が日本。そりゃぁ、子どもが豊かな夢を見られなくなっているわけですな。