「わび」と「さび」
学園の西門の所に、緑がある。「タヌキが出没した」という噂が立ったところだ。かつて文学部棟入り口近辺で「タヌキ」とおぼしき動物と鉢合わせをしたことがあるが、本当のところは「アライグマ」。ちょっとした林となっているが、その外れで「わび」の世界を見た。もう年の暮れだというのに、秋の暮れの風情。ちょい、落語のご隠居さん風に。
「わびってくりゃ、さびってこなきゃあいけねーなぁ。どっかにさびはねーかねぇ。」
「わび」の世界に背を押されたご隠居さん、近所の「う月」の暖簾をくぐった。
「こんばんは.ちょい、お邪魔させてもらうよ。」
「あれ、ご隠居、今日はお一人で?」
「ここんとこ、今日も一人なんだな。」
「そりゃあ、さびしいねぇ。」
「ってとこで、うんとさび効かしてにぎっとくれ。まずは煮もの三貫と白身魚三貫」
「んーん、効いたねぇ。涙が出るよ。」
「それってさ、ご隠居、相方がいねえさびしさの涙じゃないのかい。」
「言うねぇ、板さん。たしかにね、あっちのテーブルもこっちのカウンターも、お二人さんばかりだ。世間じゃ、クリスマスイブを一緒に過ごす相方がいねえ奴ぁ、死んだも同然、って言うじゃねえか。」
「こちとら、そういうお二人さんに、うんとこさ、召し上がっていただいて、正月を左うちわで迎えてぇでがすな。」
「ホタテの醤油焼き。ワタ付けてね、苦み走ったいい男になるんだから。」
「今更遅いって、ご隠居。諦めな、今日は。」
「一句できた。クリスマス侘寂ばかりの爺や爺」