「私はとてもいいと思うのに、誰も・・・」

 昼前、研究室のドアが開き、Iさんが顔を出した。この4月からご子息を私立・和光小学校に通わせている。わざわざ通学の便を考えてご自宅を変えてまで入れたかった学校だ。新入学で期待と希望で胸をとどろかせている毎日である様子は、Iさんの言動で分かる。「うちの馬鹿息子が高いところから飛び降りで頭を打ったという知らせがさっきあったので、これから行ってきます。」 病院に運ばれるほどのことではないとのことだが、それは心配でたまらないだろう。「こんなところで油売ってないで、ほら、行った行った。」「先生ね、私はとても感動した文章があったのに、誰も感動しないのよ。」と、和光小が配布したパンフレット(「和光小学校 入学のしおり」)を、「どこだっけな、ここじゃなかった、ここだっけな、違った・・・」と頁をあっちこっちをめくり、私に示した頁には「1.学校は子どものもの 学校の主人公は子どもたちです。学校は子どものものです。・・・云々」と綴られていた。こうした一文に率直に「感動」できる親の存在を本当に尊いと思う。Iさんは20年前にぼくが学習院に着任したときの学生。ぼくの開講する授業総て(当時6種類の科目を担当していた)を履修、しかも総て100点というきわめて優秀なお嬢さんだった。「先生の授業は聞いていてわくわくするの、自然に頭に入ってくるし、しっかりと考えることができるので、とても好きです。」といわれて、多少舞い上がったりもしたっけな。いいお母さんでありいい大学教員である現在をすてきに過ごしておられます。