鎌倉遊歩

 「生シラス、解禁ですって。」 トドちゃんから心弾む声調のお知らせが来た。そういうものについては何よりも敏感に欲望を働かせる禿鶴は、即時、「生シラス丼、食べに行きましょう!」とトドちゃんをお誘いした。どこがいいかそこがいいかと、真鶴、小田原等々の候補地を挙げたが、トドちゃんの一声「鎌倉!」で決定。混むだろうなぁ、という予感5。
 禿鶴25年ぶりに降り立つ鎌倉駅、混むなんてものじゃない。人人人…では表現がぴったりではない。人塊人塊人塊・・・・。どつきあいがないのが不思議なほどの人群れ。昨夜ネットサーフィンで調べた「生シラス丼を食することができる店」を目線を走らせて探す。どの店も長蛇の列。うーん、人びとはこれほどまでに「生シラス丼」に飢えていたのか、知らなんだ。
 あの店覗き、この店覗き、その店覗き・・・・。幾つか目の店で1時間近く待ち、「相席でよろしいでしょうか。」という店の問いは「相席嫌なら来店お断りよ。」という脅迫でしか無く、それでも窓際の席にトドちゃんと並んで座る。向かい席は帽子を被ったままのおあにいさんと、ちらりと覗き見る腕にタトゥのおあねえさん.気分悪いが「シラス丼」の味が変わるわけではあるまい。「生シラス」と「釜揚げシラス」の相乗り丼ランチ登場。

 生シラスの量が非常に少ないのが気に入らないが、ありつけただけでもありがたいと思え、という店員の雰囲気ゆえ、「いただきます」と日本式食前挨拶をして、口に運んだ。うん、おいしいですね。「しらす」といえばぼくはウナギの子ども期かと思い込んでいたが、トドちゃんはちゃんと正しい情報を仕入れておられ、「鰯の稚魚なのですって。」と耳打ちして下さった。どうりで、ウナギの稚魚不足のこの時節柄にもかかわらず、我が民族は人塊人塊人塊・・・・になって「生シラス丼」を求めるはずなのだった。
 「おなかいっぱーい」のふたりは再び人塊人塊人塊のうねりのような流れに身を預け、八幡宮を目指した。一の鳥居前で人塊の流れが瞬間途絶える隙間を縫ってカメラを向けます。外人さんがどうしても流れていかず画面に収まってしまった。

 お参り風景はしゃれにならない。どつかれどつかれ流れたためカメラを構えることなど不可能であった。境内を歩き回る。禿鶴の写真弟子であるトドちゃん、今日は師匠をはるかに超える感性、目力、そして腕前。師匠は恥ずかしくて写真をあまりアップしたくない。今日は口ばかりがうるさいブログである。すんまへんなあ。情けないほどの写真―おまけに焦点が合っていない―だが、行った証拠、撮った証拠で、幾葉か。






 お宮を背にし、材木座海岸へ歩を進めた。トンビ、トンビトンビ、、、トンビ、トンビ…。これほど大勢のトンビに出会ったことはない。海岸の入り口に「トビに注意。後ろから食べ物を奪い取られます。」との注意看板。一着のセーターで互いの顔を隠して向かい合っているのがいたが、何だ?何なんだ?と思ったが、トビの襲撃を避けてケンタ鶏唐揚げを食するためであることが判明。なるほどこのカップルはこの場が慣れているな。そこから離れた波打ち際で肩を寄せ合って青春を語っているらしいふたりにトビが急襲。女性の方がやられたらしい、しきりにおでこあたりをさすり、男性が覗き込んでいた。こちらはこの場は新人さん級ね。

 海は適切に白波が立っており、サーファーが楽しんでいた。このサーファー、櫂を持っていた.そんなのあるんだ。

 夕刻前、一雨が来たけれど、半日、心の洗濯をすることができた。とはいえ、土産を買う隙間もないほどの人群れに「怖じけつき」はしたのだった。帰りは逗子駅からJRに乗り込む。正解!