貨列筏を運航した河川

 地図などあまり見ることも無い。パリの街を歩くための都市地図なら18世紀頃からのものをああだこうだと眺める習慣が2000年以降身についた。しかしこれはあくまでも「人工」地図そのものである。全くの「自然」的な地理などは存在しないのだろうけれど、それでも山岳・平野・河川などを描いた地勢図はより自然的であろう。運河などはある年代から突然地図に登場することになるが、悠久の昔から存在している河川は人工的に流れを変えさせられていることもあろうが、地上にどっしりと腰を落ち着け続けている。貨列筏はこうした河川を利用した産業・運行手段である。ボート程度の小さな筏ならば小さな川でも利用されようが、貨列というほどだからいくつかの筏がつなぎ合わされて運行される。河川はそれにふさわしい幅広と深度と留めない流れを持っていなければならない。貨列筏の「発明」には相当の知恵と汗とが動員されたに違いない。そしてそれが確かなものであったことは約400年もの歴史(試作期を入れれば500年)の保持が証明している。まさにフランス中世〜近代初期の知恵と技と言っても過言では無い。
 さて、利用された河川は地図上のどこなのだろう。次はフランスの代表的な河川を描いた地図。

 パリを通る、フランスを代表するセーヌ川セーヌ川に合流するヨンヌ川。この二つがぼくのこれまで知り得た河川だ。さらにヨンヌ川にはその支流が合流する。代表的なのがキュール川そしてブヴロン川。後者2支流河川は上の河川地図には描かれていない。これらの流れに沿ってぼくは「筏師たち」の歴史旅行をするわけだ。地理学的には東西で言えばフランス中部から中東部、南北で言えば北部から中南部への旅となる。この確認のために、先日入手したコード集で河川名の確認をしてみよう。・・・あれれ、セーヌ川右岸(つまり北側)の地域からセーヌ川に合流するマルヌ川(およびその支流)がかなりの情報を持って記述されているぞ。さらにさらに、パリにはどうしても通じないロワール川(およびその支流)も記述されている。またまた、ベルギーに源を持ちパリより西の地域でセーヌ川に合流するオワズ川・・・。あちゃー、薪材の筏貨列産業文化はヨンヌ川→セーヌ川〜パリ固有だと思ってきたのだが、それを覆されてしまうのか。それは困る、今更困る。そんな余裕も力量も無いぞな、もし。

薪材で作る筏流しに関わって記述される河川(抄)
1.Oise→Seine系(パリ西、セーヌ右岸)
 Aisne エーヌ川 エーヌ県02 セーヌ川支流フランス北部 サント=ムヌー近郊のアルゴンヌの森に源を発し、コンピエーニュ近郊でオワーズ川に合流する。
 Oise オワーズ川 オワーズ県80 セーヌ川支流フランス北部 オワーズ川(Oise)は、ベルギーとフランス北部を流れる川である。ベルギーのシメイ近くにある標高309mの山塊に源を発し、フランスのイヴリーヌ県コンフラン=サントノリーヌでセーヌ川に合流する。オワーズ川はフランスのオワーズ県やヴァル=ドワーズ県などの名前の由来となっている。
2.Seine右岸系(パリ東)
 Aube オーブ川 オーブ県10 セーヌ川支流フランス中東部 シャンパーニュ=アルデンヌ地域圏オート=マルヌ県ラングル高原が水源  マルシリ=シュル=セーヌでセーヌ川と合流
 Marne マルヌ川 マルヌ県51 セーヌ川支流フランス北東部 ラングル高原に源を発し、北へ向かって流れた後、サン・ディジエとシャロン=アン=シャンパーニュの間で西に折れ、シャラントン・ル・ポンでセーヌ川に合流する。
  Condé マルヌ川支流
  Saulx マルヌ川の支流
3.Seine左岸系(パリ東)←これまで史書等で知り得た情報
 Yonne  ヨンヌ川 ヨンヌ県89 セーヌ川支流フランス中部
  Beuvron ヨンヌ川支流
  Cure  ヨンヌ川支流
4.Loire系
 Loire ロワール川 ロワール県42 フランス中央高地 セヴェンヌ高地の北東に源を発し、ロアンヌとヌヴェールを北へ流れる。オルレアンで西方に変え、トゥールを流れてナントで大西洋に注ぐ。
   Allier アリエ川 アリエ県03 ロワール川支流フランス中部 ロゼール県のマンド東部の中央高地に水源であり、ヌヴェールの西部でロワール川に合流する。
※意外な接点というべきか  Loireの流れはニエヴル県の県庁所在地ヌヴェールNeversを通っているのだ!つまり、ロワール川と源流をモルヴァンの森に持つニエーヴル川との合流点あたりにヌヴェールはある。