ガイドブック余白ページに「コラム」

 1ページ余白ができたので、次のような「コラム」を用意する。
〔コラム〕 クラムシーを描いた文学で私たちになじみがあるのがロマン・ロラン『コラ・ブルニヨン』である。中世期の老家具職人の四季折々の姿を綴ったものであるが、邦訳本の入手はかなり困難な状況である。私は古書店で宮本正清訳いすゞ書房版のロマン・ロラン文庫6(昭和27年)、および植村宗一訳の私家版ロマン・ロラン全集第6巻(大正11年)を入手した。翻訳並びに綴文の名手お二人をもってしても、「コラじいさん」の語りを日本語に移し替えることは困難を伴ったようだ。専門分野の方々の大いなるお力に期待するしかない。植村宗一は直木三十五の実名であることを添書しておく。
 ところで、原作第11章 La Nique au Duc (邦訳宮本版「公爵を嗤う」、植村版「実際的の悪戯」)に、村役場の倉庫から一体の古い立像を見つけたことが物語られている。誰がそれを作ったのか、あるいは誰を作ったのか、台座を調べてようやくBalthazarという名を読み取った、それから「コラじいさん」はその立像をBalducと呼ぶことにした、とある。本ガイドブック30頁の上の写真で建物壁面に立像が見えるが、これを人々はBalthazarあるいはBalducと呼び、保存に努めている。立像の伝承される作者が実在した人物なのかどうかは、不明である。伝承ではサン=マルタン教会を建てた石工だとされてきた。ロマン・ロランはこの伝承に基づき、文学作品の一頁を飾ったのである。
 ちなみに、章タイトルは宮本版が原義に近い。というのも立像は担がれて街中を練り歩く際に「公爵様のお通り!」との声がかりがされるのだが、「わしにゃ、神さまとわしの信仰を宿らせるのに一片の木材があれば十分…その日には公爵が必要だった。そこで見つかったという次第だ。」と、ロマン・ロランはコラ・ブルニヨンに語らせている。
◎周りの人たちが見ても、ぼくはよほどの老化・退化した身体であり立ち居振る舞いがあぶなっつかしくて仕方がないようだ。席を譲ってくれる人がすごく多い。有難いと思うようにしているが、やはりさみしい。しかし現実に、よれよれ状態であることは自身でも分かっているから、寂しがっているのは、「甘え」だろうな。