学生対応2件など

 午前中、とても大学生とは思えないお嬢さんが研究棟内をふらふらした様子で歩いてくるのが目に入った。何かを探しているように思えたので、「どこにいらっしゃろうとしているのですか?」と声をかけたところ、教職課程履修の手引きのガイドペーパーを取り出し、教育基礎、教職概論の項目を指さし、「この担当の先生に会いたいの。」という。「教育基礎なら私が担当していますけれど、何か?」「今からでも履修できますか?」「もう5回済んでますからね、お出になるのは自由ですが、果たして授業についてこられるか。」そう答えてから、所属・学年を尋ねると本学の学生ではなく1年生、ガイダンスを聞き逃した、とも付け加える。これは研究室で応対した方がよいと判断し、招じ入れた。本学の学生でない場合には「科目等履修生」といって一科目ごとに履修登録をし教授会で承認されて初めて履修が可能になる、と説明。付け加えて今年度の履修登録はすでに締め切られ教授会で諮られたので、そもそもあなたは、今年度は資格そのものがないので、授業に出ても一切評価対象にならないと告げた。情報をまったくと言っていいほど摑んでいないのに驚いた。「1年遅れの履修になりますが、がんばれば卒業時に免許状が出ますので、来年からがんばって下さいな。」と伝えた。
 その後また、廊下で戸惑いを見せている男子学生がいたので声掛け。「どうなさったの?」良く聞き取ることができない声で返事をしたので、「とにかくぼくの部屋にいらっしゃいな。そこでお話を聞きましょう。もちろん、それがあなたにとっていいと判断されることが前提です。」ようは、声を大きく出すことを怖れる典型的な現代青年。何度も廊下で聞き直せば益々彼の心を閉ざすことになると思い、研究室であれこれと懇談をすることにしたわけだ。「今日は授業も会議もありませんから、ゆっくりと時を過ごせます。それでいいですか?それとお願いがあります。補聴器はつけていますが、それでもあなたの声が私に届きにくいので、もう少し声を大きくして下さい。四周が閉ざされていますので、声についてはさほど心配なさらなくていいですよ。」
 自分に自信がない、何をやっていいか分からないというお決まりの話を、ぽつぽつと語る、そして、こんな自分はダメだ、とも。今の君がそうなのならそれが自分なのだというところから考えるしかないでしょ、ダメだダメだと言っても良くなる訳はない。現実を受け入れその現実でできることからやっていくことが力がつくことだし、自分が分かることにつながりますよ。親に何と言っていいか分からない、という彼の言葉で、20年前の「忠夫君」のことを思い浮かべた。彼の生き方をぼくは「匿名的コミュニケーション」と名付け、匿名から実名への脱皮の方法をあれこれと考えてきたのだった。それと枠組みはまったく同じように捉え、ぼくの自分語りをはじめた。退屈はしていなかったようだが、明日が見えた訳でもない。そういう状態を見て取って、再会を約してお別れした。
○今夜はホテル・メッツにお泊まり。明朝、新生教育学科の全体体験学習で、ぼくはその出発をお見送りするつもり。