私には風はいりません

 昨日の帰路の新幹線。空いていた右隣の席に、臭いたまらぬ、ヘソ出しミニスカ女が座るや否や扇子でパタパタ。右手で扇いでいるから強烈な臭いを伴ったいやーな風がこちらを直接襲う。
 「私には風はいりません。」
 そう言ったら、一瞬キッとした顔をしたが、左手に扇子を持ち替えてばたつかせる。きわめて不器用。まもなく扇子はバッグの中に収められた。
 とにかく、きつい香水―安いか高いかは知りません―をこうもあおり続けられては、たまりません。夏の地獄。さすがに香水のことは口にしませんでしたけれど、ね。

 車内の空調は効いている。なのになぜ扇子?見てもらいたかった?ヘソと同じように。そんなにできがいい扇子には見えなかったけどな、人格と同じように。

 そうそう、くだんの女性がうれしそうに、口の端に軽蔑の笑みを浮かべた瞬間がありました。
 検札がやってきましたが、切符が見つからなかったのです。車掌さんに「済みません、後にして下さい。」とわびを入れて、しばらく探し続けました。ポーチに入れる習慣ですのでポーチをくまなく探しましたけれど、見つかりません。切符はポーチの左ポケットに入れる習慣ですが、昨日は、どういうわけか右ポケットに入れた記憶がよみがえりました。そのポケットには眼鏡を入れています。・・眼鏡を取り出したときに切符が勝手に出ちゃったのかな。足下をくまなく探しましたが、見つかりません。ちょっと待て、検札が来る前は靴を脱いでいたっけね・・・。そう思い始めると足裏に違和感がありました。
 事の顛末は、貴婦人トドちゃん改め貴婦人カピちゃんに、携帯メールで送信し、「落ち着いて探すのよ!」「切符はどこどこ、眼鏡はどこどこ、携帯はどこどこと、入れるところを決めなさい!」などと、励ましやらご注意やらをいただいていたのですが、靴の中にあった、とメールを出すと、
「シンデレラからのプレゼント」
との返信。すかさずぼくは、
「とんでれら
 フンデレラ」
と返信した次第です。
 その瞬間、かの女性の口の端がゆがんだのが。きっとこれ、思い過ごしでしょうけれどねぇ。

 

 富士山を撮すぞ、と、隣の女性のこととは無関係に意気込んでおりましたが、かすかに微かに、山嶺が見えるのみでした。