ひょいと釣られたドンコではねる

 1930年代、近藤益雄の自由律俳句の一句。「晩年にいたるまで自己を凝視する際に、少しずつ表現を変えながら詠まれ続け」た作品だという(清水寛)。釣り上げられたドンコの絵が「ひょいとつられたどんこではねる」の俳句に添え画きされている色紙は、壮烈な益雄の人生に反比例するがごとく、陽気で滑稽で愚痴の多い人生を思わされる。
 さて、この詩にあるドンコ。清水氏はかっこ書きで「鈍甲、カワアナゴ科の淡水産の硬骨魚」と説明を加えている。益雄の絵のドンコとぼくの知っているカワアナゴとは似ているようでいて、かなり違う。清水氏に訊ねると「広辞苑第5版に依っている」という。ちなみに手許にある広辞苑第6版に依れば、「ドンコ科の・・・・」とあるから、第5版記述を訂正したものと考えてよい。
 小学館日本国語大辞典では「スズキ目ハゼ」、「大辞林」もほぼ同様。カワアナゴ科、ドンコ科、ハゼ科と、色々と名前が唱えられているが、魚類学(生物学)の呼称(学名)を訊ねるしか他あるまい。
 学名 Odontobutis obscura スズキ目ドンコ科に分類されるハゼの一種。

 ぼくは以前、海で獲れるドンコと勘違いをしていたことがある。魚屋の店先にドンコが山と積まれていた。ドンコ汁にして食べたが淡泊でおいしい。そのドンコと、益雄のドンコとを混同していたので、ぼくのこだわりは激しいものがある。