うららかな日だまりに…


 風邪の症状もだいぶん抜けたので、外回りを少し片付けた。無理は禁物という便利な言葉に甘えて、ぼくが育てているわけではない鉢植えのレモンの木をじっと眺めていた。手には植木ばさみを持っている。細君が悲鳴に近い声を挙げて、「枝を切っちゃだめっ!」とぼくを威嚇する。植木ばさみ姿のぼくを見て、「植木の手入れ」と称して何も考えずにぱっちんぱっちんとあれこれの木枝を切り落とす常態という前科があるぼくだから、木の持ち主である細君が強い抗議の意志を持って剪定作業に取りかかることを制したのだった。それにしてはあまりにも強い口調であったことと、ぼく自身、レモンの木の剪定を行う意志はまったく持っていなかったこととで、「どうしたの?」と細君に問いかけた。細君は、洗濯物を干している手を休め、ぼくとレモンの木の間にやってきて、レモンの木枝を指さし、「ほら!」と宣うではありませんか。以前にも同じようなことがなんどかあり、細君の指の先では、生まれたばかりのカマキリやアゲハチョウの幼態アオムシや木枝を擬態するナナフシ等が生命を謳歌していたのだった。さて、今日も何か小さな生命が息づいているのかしら?顔を近づけたけれど、よく分からない。ヘビのようにも思われる尻尾様のモノがある。どれ、家に戻って眼鏡を取ってこよう。ついでにカメラも。
 ・・・トカゲであった。撮った写真を細君と上娘に示したところ、細君「あれ、死んでるんだよ。」 ぼく「え?」 上娘「モズのはやにえ!」 自然の理を鼻先で見て、我が家近在に、まだ理で営まれる「自然」があるのだな、と小さく感嘆した。
「百舌鳥」と来れば「もずが枯れ木で鳴いている♪おいらは藁をたたいてる♪」の歌が脳内に流れてくる。満蒙開拓義勇団に長兄が加わった百姓の切ない心が伝わってくる歌で、よく歌声喫茶で歌ったものだ。・・・と、ここで、歌声喫茶で連想する。そう、我が主題歌、「鶴」。人様にはツルッパゲから「ツル」=「鶴」のハンドルネームにした、と語っているが、ぼく自身にある「本当の心」は、ロシア民謡の「鶴」をこよなく愛するところからHNとした。「オオ・・・・・・− オオ・・・・・・・・ 空を飛ぶ鶴の群れの中に あなたはきっといる きっと このわたしを まっている 激しい戦いの日も 空に群れて飛ぶ 美しい鶴の群れ あなたはそこにいる」(一番) 初めて耳にしたのはダークダックスが歌い、岸田今日子が語りを入れたもので、あれほど見事な歌と語りのハーモニーを他に知らない。 
 自主ゼミのメンバーを無理矢理にでも新宿の「ともしび」に連れて行こうかな。今でも「あかねちゃん」は司会舞台に立っているかしら。彼女の歌う「鶴」はそれはもう美しい。20数年昔のお話…。