写真を綴じ込む

 鉛の活字を使って版下を作る時代からワープロを使って版下を作る時代へと移行するちょうどその狭間期に研究的自立を図ったぼくの人生。その狭間期の作品が「上田庄三郎著作集」だった。鉛の活字の味がなくなり何となく均整の取れたその意味では読みやすいけれど、味わい深さをまったく感じず冷たいとさえ覚えたものだ。
ところで、ぼくがこれまで世に問うてきた著作の中で図版や写真をページに組み込んだのは、なんと『知的障害教育の開拓者セガン−孤立から社会化への探究』(2010年)である。版下製作が難しいのではないかとか経費が相当かかるのではないかとか、そんな思いがなくはなかったからであろう。
 話題は昨日に続く。次は1871年に出版されたパリガイドブック。とはいえ極めて特殊なもので、パリ・コミューンで破壊されたパリ(その周辺を含む)を写真付きで案内するものだ。『燃えたパリ』・・・何となく、大佛次郎の大作『パリ燃ゆ』を想起させるタイトルだが、もちろん、このガイドブックの方が大佛作品より遙かに出版は古い。

 これが書物の表・表紙。写真家が出版した。

 写真ページと活字ページとは完全に分離している。写真ページは厚紙が使用されている。つまり、写真を版下にする技術はまだ持っていなかったことの証左である。リトグラフの技術はかなり高いところまで有していた時代だが、写真はようやく印画紙に映像を映し出すまで行き着いたばかり、というところ。
 パリ・コミューンを記録する写真そのものも稀覯だが、こうした写真ページを織り込む書物も稀覯である。この書をリュクサンブール公園前の古書店で見つけたときには、写真および書籍の、それまで知識はあったけれど実物を見たことがなくある意味あこがれの歴史文化であったのだから、驚喜したものだ。2005年パリの古書店で入手。